第75話:鹿児島のイチローの回想録61「昨年の今日はガンの治療法決定に怯えたのだった」

私の昨年の今日(4 月 14 日)のブログを見てみると…

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昨夜は、明日からは自由という二文字は無いので、あれもやっておこう、

これもやっておこうと思うためになかなか寝付けず、

それに今後どうなって行くのかが心配で眠れず、徹夜同然の状態だった。

その為、目の調子も悪く今日はボールは見えないかも知れないと思いながらメテオドームに行った。

ローテ日だったが、時間帯がいつもより早かったこともあって、常連だけでなく、

他の客も誰も来ていなくてシーンとしていた。

目の調子は良くないワ、静まりかえっているワで、有終の美を飾って昨日同様に

ホームランを打ちまくろうと思っていた気持ちが萎えてしまった。

それでも、ホームランの打ち納になるかも知れないので、ここは気合を入れてかからねば

と思いながらの初球なんと、カスリもしない空振りをしてしまった。

前日までとは違ってアドレナリンがさっぱり湧いて来ない。

必死なつもりで打つのだが、なんだか集中しきれないまま半分ほど凡打の連続が続いた。

半ば過ぎた頃、ようやく一本の中段へのホームランが出た。

ヨシこれで調子を取り戻せるゾと気持ちが上向いて来た。

が、やはり何か気合いが空回りしている感じが続いた。

そして、その一本のままで終わってしまった。

最終ゲームなのにひどい不完全燃焼のままだった。

明日は何を言われるんだろう、どうなるんだろうか、という不安が

心の底にあった為だと思う。

最後のここ一番だったのに集中力を絞り切れなかったのだ。

情けない。

悔しい限りだ。

実にもって残念無念の極みだ。

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と、以上がブログに書いてある。

そして、一年後の今日 4 14 日はどうなっているかというと、

ファンの青年の見ている前で 1400g の超・重量バット」を振り回して

最上段に突き刺さる特大の一発を含んで三本のホームランを打って見せることができた。

前立腺ガンは発見時は四人の同期生の中では一番悪くて、“ステージだ”

と言われたのだったが、ホルモン療法のお陰で今のところガンは大人しくしていて、

ホームラン人生を邪魔しないでいてくれているのだ。

大きな一発を見ていた青年が “本当にガンなんですか、信じられないパワーですよねー”と

あきれ返ったという顔をして言っていた。

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