第17話:鹿児島のイチローの回想録⑩「身体的な資質は何も持ち合わせが無いので知恵を絞って戦っている」

身長 163cm で体重が 54kg 前後を行ったりきたりの、バッティング仲間では一番の小柄。

若い時に何も運動というものをやったことが無い為に、基礎的な力や運動能力は何も無い。

全て 老体の62 歳になってから積み重ねて来たものばかりだ。

コレで、体格が良くて、パワーも、瞬発力も、キレもある元気盛りの若者達と真っ向勝負せねばならないのだ。

だから道具のバットには人一倍のこだわりを持ちつつ、いかに操れるかの研究もやって来ている。

バッティングというものを始めて間もなくから“バッティングセンターのホームラン王”という

大きな宿命を背負わされた。

バッティングセンターでは、大多数がというよりも、ほとんどが一人で黙々と打っている。

打者対打者の直接対決というのは無い。

しかし、私はそれをやらざるを得ないように天の神様が仕組まれた。

何度もホームランの記録も作らされたことで、常に他の挑戦を受けて立たねばならない身になっている。

そして、戦いを重ねるうちに、一番の頼りはバットだと確信した。

当然の結果としてそのバットというものと、その打ち方を研究し始めた。

時には危険な自打球を覚悟で危ない鍛錬も行った。

一番スリルがあったのは芯で打つ技術を向上させる為の、バットにワッカのおもりを嵌めて打つ鍛錬だった。

重量に耐えるスイングパワーも併せて養おうという考えもあった。

見ていた仲間達はワッカの角に当たると顔面直撃の自打球になるからやるなと口をそろえて言った。

まさにその通りで、そうはなりたくないし、以後のバッティングセンター活動に大きなブレーキが

かかるといけないので、かって無いほどに最大の緊張感をもって打ち続けた。

(赤色の印がバットの重心位置、黄色の印がバットの芯の位置で、必ずワッカの中間部から黄色印の間で

打たねばならないのだ)

その結果は右ひじのたたみ方や抜き方、ボールのコースに対するスタンスの取り方、各コースのインパクト

ポイントへの正確なバットの出し方など、大事なことを着実に身に着けることが出来た。

特に苦手として来ていた内角に対して飛躍的に対応力が向上して、ホームラン対決でも勝率がアップした。

危険と背中合わせゆえに、より真剣さが増す為に短時間で芯の部分で打つ技術を身につけることが出来た。

重量が 1000g のバットに 400g のおもりなので、合計で 1400g のバットを振ることになるのでパワーの

鍛錬法としても極めて有効だった。

その後はどのバットも芯の部分で打てるようになっている。

(写真は 1500g のバットだが、1.5 の字の部分が芯になってて、上側が打痕ではげているのだ)

この1500g の超々トップバランスのバットでも右腕の引き付けの強さで、とてつもない遠心力に負けることなく、

芯の部分で打つことが出来ている。

バッティングセンターでホームランを数多く打つ為には、やはり重たいバットの方が方向をつけやすくて有利だ。

だが野球経験者たちは、ほとんどが重たいバットを嫌っている。

お陰で重たいバットが好きな私は、いつまで経ってもヒーロー気分を味わうことが出来ている。

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