第64話:鹿児島のイチローの回想録55「ノックの名人なのにマシンは打てなかったM君の想い出」

常連だったM という野球青年から、私がリーダーを務める “メテオ・ホームラン軍団” 

に入れてもらえないかと頼まれたことがあった。 

時々私を食事に誘ってくれるし、明るくて溌溂とした好青年なので、

私もスグにでも入れてやりたいと思った。

 しかし、他の軍団員とはレベルが違いすぎるので、入っても面白く無いだろうと思って、

彼のレベルが上がるのを待つことにした。 

彼はノックをする時ならば文句なしにナンバーワンなのだ。

確実に芯でとらえて、ポンポンとフェンス越えを放っている。

そんなノックの上手な彼が、ひとたびマシンの前から来る球を打つとなると、

全然打てないし、たまに芯に当たってもなかなかフェンス越えはしないのだ。 

見ていて不思議で仕方が無かった。

それで何とかして打てるようにしてやりたいと思って、“なぜ打てないのか”と、

目を凝らしてみているのだが、まるで悪いところが見つからない。 

スイングの仕方も私よりきれいで、スイングスピードも速い。

強いて言うと、テイクバックが大きくて、打つ度にトップの位置がかなりバラついてはいる。

だから、スイングが安定せず、とらえる位置もバラつく為に打てないのだと思った。

それを指摘して、トップの位置を安定させてみてはどうかと、私のトップを止めたところから、

コレを動かすことなしにそのままスイングに入っても打てるということを見せてやった。

僕にはそんな打ち方は出来ませんと、やはり大きく反動をつけた打ち方を変えることはしなかった。

人間性がいいのでホームラン軍団に入れたかったのだが、いつの間にか姿を見なくなった。

軍団に入れてやってから鍛えるようにしていたら良かったのではと、今でも悔いが残っている。

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