今年の最初のホームラン対決は、昨年末のホームラン対決でお互いに一本もホームランを
打てなかった為に引き分けに終わった O君との再戦だった。
風邪の為に三十五年ぶりに全く声が出なくなっていたのだが、体は別に何処も悪くなかったので、
約束の時間にメテオドームに行った。
スタッフの青年から“オミクロンじゃないですよね”と、念を押されたが、
入り口の熱感知器が 36.4 度だったので、自信を持って首を横に振った。
しゃべろうとしても、カサカサという音しか出ないので O 君がびっくりして、
“今日はやめにして良くなられてからやりましょう”と言ってくれたが、
バットを振るフリをして指でオーケー印をやって見せて予定通りに戦うことになった。
彼が五番打席の 110km/h を打って、私は六番打席の120km/h を打つという、並び打ちでの戦いだ。
今年の第一戦なのでなんとしてでも勝ちたいと思った。
当然のことながら彼も同じ思いだったようで、力みが出てなかなか芯でとらえることが出来ないのだ。
私も力むまいと思っているのに、早く彼より一本打ち込んで楽になりたいと、
無意識なうちに焦るせいか全然打てない。
お互いに凡打を繰り返すうちに半分を打ち終わった。
“また、去年のように二人とも一本も打てないままで引き分けるのか”という、嫌な予感がした。
と、そんなところへ彼が目の覚めるようなライナーをフェンスに叩きつけたのだ。
これで私はビビリが出て益々打てなくなった。
そんな私の状態が分かるらしく、彼は精神的にゆとりが出たようで二、三球おきにいい打球を放っていて、
いつホームランを打ってもおかしくない状態になった。
だが、残り五球になってもホームランは出て来なかった。
今度は彼に焦りが出る番だと思うと、私がいい当たりを打てるようになって来た。
ここで一本打ってケリを付けたいと、もう必死になって当たるも八卦当たらぬも八卦という感じで
バットを振り回した。
残り二球の時に詰まりながらも、一本ホームランゾーンに飛び込んでくれた。
“もう一本打たねば逆転される、もう一本ッ” という気持ちで必死こいて振ったのだが、
大きく空振りしてしまった。
ただ、彼はついに一本も打てずに終わった為に、去年からの戦いはギリギリで私の勝ちとなった。
この長年にわたって何度も接戦を繰り広げて来たライバルの O 君がお母さんの介護の為に
鹿児島を去ることになった。
お二人の末永いご健勝を祈って空港まで送って行った。
年を重ねると、淋しい別れが増えていく一方な気がしている。
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