第57話：鹿児島のイチローの回想録㊾「初めてのシュークリームの想い出」

19 歳の時に故郷鹿児島を離れて神戸の自動車技術者の師匠に弟子入りしたのだが、

半年ほど経った時に、今回私のガンを知ったことで久しぶりに年賀状を下さった方が、

“ホームシックにかかるといけないから”、ということでガールフレンドを紹介して下さることになったのだった。

そして、田舎者の私がビビるほどにきれいな喫茶店で引き合わせて下さり、

コーヒーの他に何を希望するかを問われたが答えようが無かったので、その若い女性と同じモノにしてもらうことにした。

出て来たのは見たこともないお菓子みたいモノだったので、“コレはなんというお菓子ですか”と聞いたら、“シュークリームというものですよ”と知人が教えて下さった。

若い女性と会って話をするというのも初めてで、何を話していいのかもわからない為に頭が混乱したたまま“戴きます”と言ってそのシュークリームにパクッと噛みついた。

次の瞬間若い女性の方へ勢いよく中のクリームが飛び出して行った。

切れ目が入れてあるということを知らなかったが故の大失態だった。

あまりにもお互いの境遇が違い過ぎることから、折角の若い女性との初デートはその一回限りで終わったのだった。

写真は昨年、大の甘党の私に K さんがご馳走して下さった、

“日本一大きくて美味しい、飯塚のシュークリーム”だ。…